The Queue 2017-2022
ウィンブルドン行列体験記&ガイド

英語でchampionshipと言えばスポーツなどの選手権大会を意味するが、the Championshipsは選手権の中の選手権である全英ローンテニス選手権、通称ウィンブルドンを意味する。そして、The Queue(ザ・キュー)と言えば、その辺の行列ではなく、ウィンブルドンの当日券を買うための行列を意味する。全仏オープンなどが当日券の販売を止めてしまった中で、ウィンブルドンでは行列の伝統を守って期間中毎日1万人近くの人が行列に並んでチケットを買う。

ウィンブルドン観戦は松岡修造がベスト8に入った1995が最初であったが、行列は1999に初めて経験した。当日朝からの長い行列に並んだ。宿泊行列に初めて並んだのは2006で、この時は事情が分からず無謀にもテントなしで寝袋だけで過ごした。本格的にテント行列に参加したのは2011で、この年と20121週間の休みを利用して第1週を観戦した。2013からは毎日が日曜日となったので、行列で当日券が買える1回戦から男子準々決勝まで滞在するようになった。

2011-2013年は、全滞在期間ホテルかB&Bを確保した上で、テント泊とホテル・B&B泊を交互に入れた。2016からはシャワーの問題が解決したので、前後と中間にホテル泊を入れて、残りをテント連泊とした。2017はバッテリー充電の問題が解決したので中間でのホテル泊を止めて、初日と最終日のみホテル泊とした。そして、2018はホテル泊を入れないですべてテント連泊とした。2019年も問題がなかったので前年同様にテント12連泊とした。コロナ禍で3年振りに行列が再開された2022年は到着日が鉄道ストであったため空港ホテルに1泊したが残りはテントで11泊した。

徐々に変えて現在のテント泊のみとなったが、初めてテント泊を計画される方には近くのB&Bに宿を確保した上でのテント泊をお勧めする。初日以外の第1週であれば、テントとB&Bを交互にしてもセンターコートは確保できる。私の場合、観戦後に並んで2泊でセンターコートを確保しているが、観戦後にB&B/ホテルで1泊して翌朝並んでテント1泊すればセンターコートを取れる。人によってテント泊の適応性は異なるようなので、慣れてからテント泊のみとされることをお勧めする。

テント行列の参加者が年々増加し、初日のセンターコート確保が厳しくなっている。それでも2017年までは開幕前日の日曜日の早朝に来れば500番以内に入った。しかし、2018年は開幕戦のフェデラーを観たいファンが多く来たため、土曜日の19時ごろに来た人で500番になった。行列先頭は、例年であれば土曜日の早朝であったが、2018年は金曜日の午後2時ごろから並んだとのこと。 2019年はフェデラー・ナダルが火曜日となったので、開幕戦のセンターコートは日曜日早朝からでOKであった。行列が再開された2022年は、フェデラー不在の影響が大きく、日曜日の午前中からで十分だった。

2022年は、フェデラー不在に加えてATPトップ2も不参加だったため、宿泊行列は例年と比べて著しく少なかった。終日観戦後に並んでも1泊でセンターコートが取れた。体力があれば毎日でもセンターコートで観戦可能だった。2023年にフェデラーが復帰すれば以前の状態に戻るが、復帰しなければ2022年プラスα程度だろうかと思う。

2022年からミドルサンデーが試合日となって他のグランドスラムと同じとなった。その結果、4回戦が第2週の月曜日に一斉に行われていたマニック・マンデーがなくなり、QFまでは同じ山の中での戦いとなる。男子の前年覇者(不在の場合はトップシード)の山と女子の前年覇者(同)のいない山が月水金日火となり、反対側の山が火木土月水となった。

2022年はチケット販売の方式が大きく変わった。大型のテントの前まで進んでリストバンドを受け取るまでは以前と変わらないが、大型テントはセキュリティではなくチケット販売所に変わっている。販売方式がキャッシュレス(クレジット、タッチ決済)のみになったのは時代の流れで仕方ないが、どの売り場で自分の欲しいチケットを手に入れられるかが分からなくなった。以前の販売ブースには東側(西日がきついが見やすい)と西側(審判側)の表示があったがなくなった。また、毎年同じブースの売り子が同じ席のチケットを持っていたのを、日によって変わるようにした。主催者は抽選と同じように席を選べない方式を当日券にも適用しようと考えたのであろうが、これが混乱を招いた。望むサイド(東西)やブロックを求めて販売テーブルを渡り歩く人が続出し、それを押しとどめようとするスチュワードと逆に教えてくれるスチュワードや売り子がいて、主催者側の対応が混乱した。混乱回避のため、来年は何らかの変更があるものと思われる。

セキュリティも大きく変わった。チケット購入後従来売り場が並んでいたゲート3の前でならび、10時にセキュリティチェックが開始される。X線検査は大き目のバックパックを持っている人だけを通し、バッグの中はちょっと見るだけ。カメラのレンズサイズのチェックなどもなくなった。爆発物探知犬は行列参加者を見張っているが、ナイフなど持ち込めそうでテロ対策として十分なのかちょっと心配になった。これも見直しがあるかもしれない。

セキュリティーを通った後は、会場内に制限なく入れるようになった。以前のような10時半の大行列はなくなった。

今回のセンターコート座席図

今年もこのウィンブルドン行列体験記を参考にしたという方に出会った。私の記録が役に立っているようでうれしい。初めてテント泊で行列される方のために最新の注意事項等を含めて以下にまとめた。

A GUIDE TO QUEUEING WIMBLEDON
これをネットで検索して最新のPDF版を入手し、十分に理解するのが先ずは第一ステップ。2023年版はこちら。大会が近づくとその年の改訂版が大会ホームページに掲載される。英語の不得意な方は、コピペでできるDeepL.comの翻訳をお勧めする。Google翻訳とは違って、かなり精度の高い翻訳となる。案内やルールが書かれているが、すべてのルールが厳格に適用されるかというとそうでもない。行列への割り込みや身代わり行列、テントなどで場所を取っていなくなるなど、公正な行列が成り立たなくなるようなルール違反や人に迷惑になる行為に対しては厳格に対処されるが、一時預け荷物のサイズ制限や夕食時の退出制限(原則30分以内)などは極端でなければ柔軟に対応してくれている。

以下、公式ガイドにない情報及び注意事項(毎年ルールや運営方法が見直されて少しずつ変わってきている点にご注意)
行列に並ぶ手順は次の通り:  

正式行列前の非公式行列
正式行列は例年開幕前日の日曜日の朝8時に開始されていたが、2022年は午後2時となった。しかし、実際には午前8時から並び替えが行われたので例年と変わりなかった。前日の土曜日に来て並ぶ場合は、公園入口を先頭に歩道に一旦並ぶ(地図参照)。この非公式行列は、2017年より土曜日の午前中に公園内に移動させてもらえるようになり、一部の仮設トイレも開放されて、快適なキャンプが可能となった。2018年は金曜日から並ぶ人が出たが、歩道でテント泊、トイレなし。土曜日の朝に来ても数十番程度の違いなので意味はなく、お勧めできない。 2022年は土曜日の晩は公園内でキャンプさせてもらっていた。

正式行列開始後
日曜日8時から正式の行列用スペースに並び直す。この作業に数時間を要するが、この間に来た場合は最後尾に着いて整理を待つ。正規の場所に来てテントを設営し、Qカード(順番カード)の配布を待つ。行列の整理が終わると、最後尾にQの旗が立って遠くからでも最後尾が分かるようになっている。

 
 Qカード(Queue card= 整理番号カード)の配布
笑顔が素敵!私も笑顔
 
  Qカード
 
 Q旗は行列の最後尾
 
 翌日の行列に並ぶ場合は、朝6時過ぎに待機場所に移動して整理を待つ。当日のQカードが必要。
2019年ではフェデラー日の行列のみその場で指示を待ってから移動する方式であった。

Qカードの配布と不在チェック
配布開始は30分前に予告されるが、配布されるまでは行列を離れるのはトイレに行くかコンビニでの買い物程度にとどめる。Qカードは試合日前日に配布されるが、配布時間がいつごろになるかは30分前しか分からない。Qカード配布後の不在チェックは、2019年は予告なしで何度も行われるようになったが、2022年は夕方が多かったものの午前中に行われたこともあり、予想ができない。不在のテントでは、前後の人にどんな人がいるか、ずっといるかいないかなどの質問をする。不在情報はタブレットに入力されて再チェックされる。2度目のチェックでいないと、前後の人に同じことを確認して、不在が続いていると判断される場合は、説明に来るようにとのステッカーがテントに貼られる。長時間の不在者は、行列の最後尾に並び直すか、退場となる。

公園の外に出る場合は、行列のお隣さんに声を掛けて、電話・SMSMessenger(FB)などでチェックの予告があった場合の連絡を取れるようにすることが重要。また、公園外に出るときは必ずQカードを携帯すること。2018年、2019年、2022年は日本人の行列仲間のLINEグループで連絡しあったので便利だった。

チェック方法は毎年変わっているので要注意。主催者は、行列の公正さの維持に危機感を持っているようで、厳しい対応をするようになった。いずれにしてもルールを守って並ぶことが肝要。

開幕後の行列
ウィンブルドンパークに到着したタイミングにより、行列はひとつの場合とふたつある場合があるので要注意:

  1. 午前7時前に来ると当日の行列のみ。翌日以降の行列が目的の場合は、当日行列のQカードをもらった後に行列を抜けて翌日行列の待機場所(地図参照)で待つ。

  2. 午前7時ごろから翌日の行列の並び直しが行われる。当日のQカードの順番に並び直す。この整理に12時間かかるが、この間に到着した場合も当日行列でQカードをもらった上で待機場所に行って待つ。

  3. 2の整理が終わると、最後尾を示すQ旗が立つ。この時点でふたつの行列ができる。翌日の行列に加わるには、テントの並んだ行列の最後尾(Q旗)に行く。既にQカードを配布している可能性があるので、配布中か未配布か必ず確認する事。過去に、配布されていたことを見逃してもらい損ねた3人がいた。このケースでは、問題が発覚した時点で、隣の人が「最初から並んでいたよ」と証言してくれて事なきを得た。 持つべきものは良き隣人。

  4. 午後になると当日の行列が消えて、翌日のテント行列のみが残る。着いた時点でQカードを配布している場合が多い。
おおよその時間割(例年少しずつ変わる)
 19:00 シャワー、食事
 22:00  就寝。うるさい人がいればスタッフに頼めば注意してくれる。
 05:00   モーニングコール。テントを畳み、一時預けに預ける(6時前が混まないのでお勧め)。預け料はキャンプ用品5ポンド、その他1ポンド。キャッシュレスのみ。翌日の観戦の場合は、テントをたたまずに待機場所(地図参照)に移動し、7時ごろからスタッフの指示でQカード順に並び直す。
 06:30  当日観戦者はテントなしで並び直す。荷物預けが遅れた場合はQカードの番号で自分の位置を探して入る
 07:15  移動開始。チケット販売所のテントの前まで進む。
 07:50  センター、No.1No.2のリストバンド配布開始。センターのリストバンドをもらって初めてセンターコートの席が保証される。
 09:00-
09:30
 チケット販売開始。キャッシュレスのみ。希望のブロックを求める人で大混乱。
 10:00 セキュリティ前で待機し、10時に開始。チェックが終われば、そのまま会場内を移動できる。

センターコート、No.1No.2の座席
行列用当日券は各コート500枚。座席はすべてコートサイド(No.2はコートエンド席も有り)。席はGANGWAY(出入口通路)番号でブロックが構成されている。通常110列目の席が行列用に確保されている。東側は主審の反対側で見やすいが、西日がかなりきつい。2022年は曇り空が多かったのでそれほどでもなかったが、20172018年、2019年は晴天続きだったので辛かった。西側席の選手出入り口(101)はサインをもらいやすいので人気がある。2016年は係員が試合終了時の移動をブロックしてサインはもらえなかったが、2017年はブロックされずサインがもらえたようだ。しかし、101でも最前列か通路席でないと難しい。現実的には無理と考えた方が良い。

リセールチケット
行列でセンター、No.1コートのチケットが買えるのは準々決勝までだが、準決勝、決勝のリセールチケットを入手できる可能性もある。リセールチケットは途中で退出した人のチケットがチャリティ目的で再販されるものだが、早々に退出する人もいるようで早い段階でリセールチケットを入手できる可能性がある。

2017年の男子準決勝のリセールでは激しいもみ合いで大混乱したとのこと。 2019年では、怪我を避けるためリセール売り場の近くまで歩いて進む方式となった。2022年はセキュリティ通過のタイミングとそのあとの走力勝負となった。

ウィンブルドンで行列に並ぶと、イギリスの文化やイギリス人の価値観に触れる思いがする。他の大会がチケットをネット販売に切り替え、下段席を高額化する中で、ウィンブルドンだけが手間のかかる行列による販売、全席統一価格の伝統を守っている。商業的に考えればネット販売で費用を大幅に下げ、座席価格に差をつけることで大幅な収入増もできる。にもかかわらず伝統的な販売方法を守っているのはなぜだろうか。

イギリスも格差社会ではあるが、その中で誰もが楽しめる公平さの追求ではないかと感じる。お金持ちは高額のディベンチャーチケット(転売可能な投資家用チケットで一般価格の2050倍程度)で、庶民は抽選と行列によるチケットで観戦を楽しむ。また、主催者側と観客双方が手間をかけることにも大きな価値が置かれている。行列では大掛かりな準備と数多くのスタッフ(スチュワード)やボランティア(名誉スチュワード)が投入されている。行列する側もテント泊でなくても5時間程度の行列は当たり前となっている。長い行列の時間は、お隣さんやスチュワードとのお喋りを楽しみながら待つ。手間をかけるほど喜びは大きい。テント泊の人には、センターコートやNo.1コートのコートサイド特等席が用意されている。

われわれ外国人も等しく恩恵を受けられるのであるが、ウィンブルドンが守る伝統の意味を考えて行列に加わることが大切だ。過去に日本人が重大なルール違反をしていたのを何度も見たことがあるが、これだけの恩恵を受ける者としては襟を正して行列に並びたい。さすれば行列もまた楽し!

英語の不得意な人もそれほど心配することはない。行列では同じ趣味と目的をもった人たちばかりなので、片言の英語でも十分コミュニケーションが取れ、簡単に仲良くなれる。英語が不得意でも臆することなく会話を試みることが重要だ。また、困った時は行列の中で日本人を見つけることもできる。行列では時間はたっぷりあり、いろいろな国の人たちと語り合えるまたとない機会だ。私はテニス観戦と同じくらい行列を楽しんでいる。「行列でお喋りを楽しみ、その上最高のチケットが手に入るなんて、とても幸せな人たちね!」とは、ある名誉スチュワードの言葉。まさに至言。

初めて行列される方がこのページを参考にしていただけるようこのページのシェアやリンクをお願いします。それにより検索順位もあがります。また、お問い合わせや情報提供はhana52(at)osaka.email.ne.jpまでお気軽に ((at)@に)。テント行列を計画される方は、ぜひご一報ください。2018年、2019年、2022年の行列では、情報交換のLINEグループを作って盛り上がりました。

参考資料
ウィンブルドン行列便利メモ
ウィンブルドン便利地図
センターコート、No.1コート座席図
行列及び会場での安全について
行列でのルール違反について
行列とイギリス流の生き方

ウィンブルドン流の経営

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