FFTの野望と戦略の総括編は、デビスカップ決勝の報告です。フランステニスの神髄がいかんなく発揮され、まさに奇跡を生んだ決勝戦でした。
11月28日
明日からDevis Cupの決勝戦ですね。
ダブルスにS. Edbergが出るのではないかとの噂がありましたが、オフィシャルページでの組み合わせでは取りあえず外れていますね。
1. S. Edberg vs. C. Pioline 2. T. Enqvist vs. A. Boetsch 3. N. Kulti/Bjorkman vs. G. Forget/G. Raoux 4. T. Enqvist vs. C. Pioline 5. S. Edberg vs. A. Boetsch
前評判では当然スエーデン有利ですが、フランスには91年には、ルコント、フォルジェの布陣でサンプラス、アガシを破って優勝するという奇跡を実現させたY.
Noah監督がいます。今年のドイツ戦、イタ リア戦でもノアの監督のもと奇跡的な勝利を実現させています。選手達は通常の実力
以上の力を発揮してしまうようです。A. Boetschにむらがありますが、最近は調子も
良くデビスカップではいい試合を見せてくれています。という訳で、フランス人は(
私も)フランスにも勝機ありと期待しています。(個人的にはEdbergには勝たせて、
Enqvistとダブルスに負けてもらってフランスに勝たせたいと思ってるのですが)
11月29日
初日は1勝1敗でしたね。フランスからの応援団ばかりが目立つ会場で、スエーデンチームの応援が控えめなのが不思議でした。お行儀のよい国民なのでしょうね。というか、フランス人の行儀が悪すぎるのか.....。
1. France(C. Pioline) def. Sweeden(S. Edberg) 6-3/6-4/6-3
エドバーグは第1セット第6ゲームで足首をいためてから動きが鈍くなり、一方的な試合となってしまいました。かなり痛そうでしたが、棄権せず最後まで試合を続けたのは立派でした。この怪我で最終日の出場が危ぶまれますが、これでプロツアー最後の試合になるかも知れないという気持ちもあって最後まで戦ったのでしょうね。 エドバーグに怪我のハンデはありましたが、ピオリーヌのテニスも素晴らしかった。これこそ男のテニスですね。渋い表情を崩さず、黙々と攻めの強打を打ち続ける。決まっても表情を変えない。ジャン・ギャバンを思わせるフランス伝統の男の中の男です。
2. Sweeden(T. Enqvist) def. France(A. Boetsch) 6-4/6-3/7-6
エンクビストの強さばかりが目立つ一方的な試合でした。パリ、ストックホルムと連勝の強さは本物です。でも、ふてぶてしい表情が好きになれないですね。ピオリーヌさん、男の厳しさを教えてやってください。
さて、インターネット放送も見てみましたが、散々でしたね。
http://www.daviscup.org/ オフィシャルページ
Actual resultにアクセスしようとすると、パスワードを求められる。何じゃこれ、会員制?
http://www.tennis.se/ スエーデンテニス協会
Actual resultが全くアップデートされていない。
http://www.malmo.com/daviscup/ マルメ市ページ、実況中継
Live Camは作動しているが、20秒間隔の会場全体画のため、面白味がない。またアクセスが多いのかスピードも遅い。
http://www.fft.fr/coupe_davis2/ フランステニス協会、実況中継
第1試合の終盤で漸く実況放送開始。\(^O^)/ StreamWorksによるライブビデオ。
でも、受信エラーが多くまともなビデオにならない。28.8Kbpsで受信しようというのが無理なのでしょうか?
スコアボードのアップデートはリアルタイムで行われている。 インターネット後進国フランスでアクセスが少なく、比較的快適なサイトです。
明日は16:30からのダブルスですが、日本時間では 0:30からです。 ダブルスを制する国がデビスカップを制すると言われています。実際に81年以降優勝国は全てダブルスに勝っています。この意味からも明日のダブルスは重要な一戦です。
11月30日
France(G. Forget/G. Raoux) def. N. Sweeden(Kulti/Bjorkman)
6-3/1-6/6-3/6-3
勝敗の鍵を握るといわれるダブルスはフランスが勝ちました。
お行儀の良いスエーデンの観客も今日は燃えました。フランス側のFFT(フランステニス協会)が組織した応援団700名に対して地元の応援は4,300名。初日はフランスの応援団の圧倒的な優勢でしたが、今日はスエーデン側の応援にも漸く火がつきました。フランス側も負けじとウェーブで応え、見ごたえのある応援合戦です。
通常ダブルスの試合は盛り上がりに欠けるもので、グランドスラムの決勝でも、淡々と進みあっけなく終わってしまいます。テニスのダブルスは見るスポーツとしての面白さに欠ける事と選手にたいする観客の入れ込みが少ないためでしょうか。
ところが、今日ののダブルスは大いに盛り上がりました。国を代表して戦う選手の気迫と一挙手一投足を見守る観客の応援が相乗効果をあげます。自国応援団の声援で選手も普段には見せない力を発揮します。見る方にも力が入ります。
フェド・カップの有明の奇跡もこんな雰囲気だったのでしょうね。
さて、最終日は、S. Edbergの棄権でN. KultiかBjorkmanがA. Boetschと対戦します。
C. Pioline vs. T. Enqvistは悔しいけど今のEnqvistの勢いを止めるのは難しいようです。最終戦のA.
Boetsh戦までもつれ込む可能性が強いのではないでしょうか。 外見からそう見えるだけかも知れませんが、クールなスエーデン人に対してホットはラテンの血を引くフランス人。最後は技術的な実力ではなく、血が勝敗を決めるのではないでしょうか。
12月1日
Devis Cup 96はフランスが5年振りに優勝しました。
Sweeden(T. Enqvist) def. France(C. Pioline)
3-6/6-7/6-4/6-4/9-7 4h25
France(A. Boetsch) def. Sweeden(N. Kulti)
7-6/2-6/4-6/7-6/10-8 4h40
これほど壮絶な決勝戦はほかにあったでしょうか。どちらもフルセットで4時間を超える試合でした。国を背負うとこれほどの力がでるものなのですね。応援の観客も総立ちで一挙手一投足を見守り、選手も一打に満身の気迫を込めて戦っています。
そして、試合の最後にはドラマがあります。 第1試合、誰もがPiolineの勝利を疑いませんでした。第3セットでも勝機がありましたが、ファイナルセットでは1ブレークアップで進み、サービスキープで優勝というところまでこぎつけますが、その最後のサービスゲームで崩れてしまいました。それを冷静に捉えて強打で逆転するEnqvistも凄い。
第2試合、Edbergの棄権による代打でN. Kultiが出場。終始Kultiが押し気味に進みました。が、第4セットのタイブレークの最中にKultiの足に痙攣が起こる。Devis CupのルールではInjury timeが取れない。これで試合はファイナルセットにもつれ込みました。Kultiは時折再発する痙攣に悩まされながらも、強烈なサーブで押して行きます。一方のBoetshは3 match pointsに追い込まれて万事窮すと思われたところから土壇場での大逆転です。
フランスチームにはATP20位以下の選手しかいませんが、これで優勝してしまうのですから、Devis CupはATPのツアーの個人戦とは全く別物ですね。見る方も自国チームが出て燃える訳ですが、われわれのような部外者も興奮させてくれるものがあります。テニスの別の面白さを教えてもらったDevis Cup決勝戦でした。
「ヒッチコックでもこれだけのシナリオは作れなかっただろう」とは、敗軍の将スエーデン監督の弁です。誰もが口を揃えて「これだけ壮絶なデビスカップ決勝戦は見たことがない」と言うすばらしい決勝戦でした。そして、それをものにしたフランスチームに対してはフランス中が熱狂的な賞賛を贈っています。
当然マスコミでの扱いも最大級で一般紙でも一面トップに数ページを加えた扱いです。一面トップの写真は、最終戦の5時間近い死闘をものにしたA. Boetschではなく、勝利の喜びを体中で表現するYannick Noah監督の写真であったのが特筆されます。
これも誰もが口を合わせて「今回の奇跡的な勝利はY. Noah監督の力によるものだ」と言っています。マスコミなどの外部の評価だけでなく、選手達が一致して「ノア監督のお陰だ」と表現しています。その中でアルノ・ブッチのコメントが印象的でした。「苦しい時にそばにいてくれるだけで力が戻ってくる。自分のサービスゲームで0-40と3マッチポイントを取られた時、危ないなとの気持ちがよぎったが、ヤニックを見るとリラックスした表情で自分に向って微笑んでいる。これで試合に精神を集中する事ができ、気が付いたらこのゲームを自分が取っていた。」
91年にH. LeconteとG. Forgetを率いてSampras、Agassiのアメリカチームに奇跡的な勝利をあげた後監督を退き、フランスチームはワールドグループからも落ちてしまいました。昨年からノアが再び監督となった後ワールドグループに復帰して一気に優勝までこぎつけました。
フランス選手の普段の実力からは考えられない結果をもたらしているのはやはりノア監督の力でなのでしょう。「ノアと仲間たち」と称されるチームの結束力には素晴らしいものがあります。選手たちのお互いのサポートと結束により、選手に実力以上の力を発揮させてしまうようです。通常のテニスの試合では監督・コーチのアドバイスは受けられませんが、デビスカップやフェドカップでは監督がこれだけの影響をあたえ得る事も興味のあるところです。 日本のデビスカップ・フェドカップチームにも長嶋監督が欲しいところですね。
ヤニック・ノア監督にはベスト4にとどまったフランスフェドカップチームのマリー・ピエルスやジュリー・アラールからしきりにラブコールがかかっています。しかし、来年もデビスカップチームの監督を続けるようで、既に来年2月のオーストラリア戦に照準があてられています。
PS
決勝戦の翌日の晩にテレビを見たら、何とヤニック・ノアがスイスでコナーズとエキジビッションマッチをしているではないですか。エキジビッションとはいっても3セットマッチです。テレビでは放映されませんでしたが、その後ヒンギスと組んで混合ダブルス、さらに歌を2―3曲歌うという深夜までのイベントのようでした。そして、眠る間もなく翌朝にはフランスに戻って大統領官邸での祝勝会。やはり超人的な人物ですね。