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イカデカ博識ノ目ヲ悦シムル事与ハンヤ如何セン 余モトヨリ論理ノ徒ニ非ズ 又学ナク智能モナク才短シ 予、諸州ヲ周暦スル事十有余年、疾病を治スル事一萬余人、是多クハ衆医ノ手ヲ経テ治シ難キ者ヲ以テス、 或ハ奇病ニ逢ヒ或一望シテ其生死ヲ察元因ヲ明ニシ、方ヲ処シ、治方ヲ定ル等ノ事、思ヒ出ルニマカセテ之ヲ録シ、門人、家童ニ示ント欲ス故ニ陋言ヲ以テシ、文ヲカザラズ、予ガ思ヒ只意ヲ示スノ他事ナシ、読ム者予ガ著ス処諸扁中ニ於テ治方ノ参考ス可シ 亦診察之一衛ニ於テハ観症秘説中ヲ執読メ其真面目ヲ得ル可也 其妙ハ其中ニ在ン而己
見機堂漫筆 草稿 巻之一 初巻ニ巻ハ六七年前ニナル 三巻ヨリ八巻ニ至テ文久紀元ノ四月初夏ヨリ晩秋ニナル 九巻ヨリ十二巻ニ至 文久二年晩春ヨリ九月ニ至テ病ノ中ニ成 又私書一巻記録二巻モ同シ 通計十四巻
見機堂漫筆 草稿 巻之二 此書余が病中に草稿なる 再び巻を開らく事なければ 言葉のい中へ違へる誤字もまた多からん 之を改 更正スの日なし 余病中筆を弄する 何人の為にするや自ら知る事なし 閲するもの其誤を正スを期ス
見機堂漫筆 後編 巻之二
○ 予、武庫ニ杖ヲ止テヨリ既ニ十有四年、患者一万四千余症ヲ治スルノ間、幼童ヲ診スルニ 助高ク築動甚キ者十ニ五六此症切ニ灸治ヲ忌ム父母ヲ不知、医モ又不知 灸治ヲ施シテ命ヲ縮ム 噫医ノ庸ナル人ノ愚ナル、予之ヲ知ルト雖放つ事不能 ○ 予、諸州ニ杖ヲ曳ク事五十余国、二十有八年 良医以上ノ者ヲ見ル事ナシタマサカニ博識ノ医アレ共、十中六、七ヲ治スル者ナク 内景ノ精微ヲ極ハメ格別治療ヲ弁ズルガ如キモ 治療ニ於テ辺鄙ノ草医ニ劣ル者多シ、況ンヤ望聞神聖ノ枢機ヲ論ズル者ハ未曾テアラズ、只書ヲ著シテ名利ニ走ル者多シ ○ 余ハ長崎伊東家十五世休焉斎三男にして幼して乳母と共に某の家に養る。七歳のとき十月四日義母に別れ時疫 血誤治ニ終ル。十七歳のとき祖母と別る。 母方時に八十八歳也。此祖母殊にあり。七歳の冬より十歳迄養育せられ、十歳の夏の頃よりお母の手にそだち、十二歳の冬より継母にひ、二十歳の冬継母又血症に終われり。二十一歳ににして妻を迎え、二十五歳の秋義父六十四歳に終。此時一人の叔母兄弟なく独立の身となる。余が義父酒を好まずその性剛毅木訥に似て愚直の性也。余又親にるに不敬なく一言かえせし事なく祭来るに非レバ酒を吃せず花街に遊バず遠きに遊事なくして父母を送る。今父母の墳墓を捨て遠きに居を移。是不忠の不孝とや云わん。此ころ子の不遇孝をなげく。いかなれば吾蒔命にして志を得ずへ業を伝る所の子不孝にして且愚なる。是天に吾が愚をせむるか。吾何ぞ恨る事かあらん。
○ 河副家近江源氏之紋ハ五三ノ桐。余ガ義父之家ニ初音之香図。源氏五十帖之内ヲ閉ユ。余其故ヲ知ラズ。長崎御代官高木氏ハ藤氏也 家之紋橙藤初音香之図。又日是アリ。竜蔵寺之末ト云リ。伊東家はモカウ也。故ニ今桐ト香之図庵モカウノ三ツヲ用テ氏ヲ英ト改ム。 余今ヨリ三十三年前天保ニ卯年ノ夏 浪華ニ遊。翌辰年晩春夢ニ神現〆余ニ示ク内医ヲ修学シ初老ヲ越ヘテ一家ノ開基タラン齢ヒ下寿ヲ保バ何ゾ扁蒼ヲウラヤマン。然レ共汝志ヲ達スル事不能生涯清貧ニ終ン。モトヨリ知遇ノ君ヲ不得必シフコトル可シ。武ヲ捨テ医ニ隠ルヲトスニ氏ヲ改更テ英トセヨト黄花一枝ヲ余ニ授クト思ヘバ是南柯ノ一夢也。此時ヨリ英民部ト改メ 此時三十三歳也。初老ノ後天真ト改ム。
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